ウェブマガジン「この惑星(このほし)」 > 星ぼしブログ > 言葉の風

言葉の風
100206.jpg

船と港の記憶

ホテルニューグランドのカフェで原稿を書き、店を出たら
夕闇のなかにイリュミネーションされた氷川丸が浮かび上がっていた。
昨日は、気分転換にノートパソコンをリックに入れて、
山下公園を散策し、それからホテルのカフェで仕事をした。
食べきれないようなボリュームのミックスサンドイッチを残らずたいらげ、
コーヒーを4杯もおかわりしながら、3時間ねばった。
終わらない仕事。でも、ふたたび港と船を眺めた瞬間、
アタマのなかの塵芥は一掃された。
お代、2482円の贅沢なひとときのフィナーレである。
電飾され、もう航海に出ることのない船とみれば侘びしいが、
氷川丸は、北太平洋を238回往復したツワモノでもある。
日中、防波堤の近くを歩いていたら、
灯油らしき匂いとペンキのような匂いが海の方から絡み合って流れてくる。
停泊している大型の船舶からやってくるようだった。
なつかしい匂い。父親が若い頃、船乗りだった。
ちいさい時分、ここ横浜港から
ボートで沖合に停泊していた大きな船に乗り込んだという。
ボートから本船に移る際のゆれるハシゴ、漂ってくる燃料の臭気、
船内の湿気、狭い廊下と厚塗りのまっしろいペンキとその匂い、
幼児にはインパクトがあったのだろう。
3歳ぐらいのときらしいが、途切れ途切れ、記憶に残っているのだから驚きだ。
船には父親が待っていた。
窮屈な船員室から港に沈んでいく夕日を
親子3人で眺めたことまで目に焼き付いている。
横浜港から今暮らす内陸部のベッドタウンまで直線距離で10キロほどある。
それでも数ヶ月に一度、船の汽笛がかすかに聞こえてくるときがある。
かすかではあるが、腹に響くように聞こえるからおもしろい。
この日は至近距離で、つま先からアタマのてっぺんまで汽笛が鳴り響いた。

カテゴリ:

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://konohoshi.jp/mt/mt-tb.cgi/181

コメントする