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言葉の風
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続・小学校のテキ屋さん

小学校のテキ屋さんといえば、
もうひとつ定番ともいえる看板商品があった。
ヒヨコだ。卵を産まないオスのヒヨコをよく売りに来た。
その人たちがテキ屋さんなのか、どうかはわからないが、
あまり堂々とした売りっぷりではなかった。
まあ、小学校の正門で商売しているというだけでも、
いまでは考えられないことなのだが。
いつも下をむいてほとんど顔を上げることはなかった。
輪ゴムを飛ばす針金ピストルやガイコツがゆれる透視鏡を売りに来た、
ちょつと威勢のいいおじさんたちとは違う印象をもっている。
そんな後ろめたい雰囲気とは対照的に、
ダンボールのなかのヒヨコ集団はピイピイと元気に鳴いて、
ひだまりのように明るかった。
毎年、飼ってくるのだが、2、3日後には死なせてしまった。
ヒヨコ1匹、10円ぐらいだったと記憶する。
ある年、飼ってきたヒヨコが奇跡的に生き延びた。
学校から家に帰るのが待ち遠しくて、毎日、走って家路についた。
トサカが生えかかっていたが、まだまだかわいらしいヒヨコの姿だ。
ところが、ついにそのヒヨコも死なせてしまった。
家に帰るとちいさなダンボールのなかで横たわり、
かたく目を閉じていた。
下にすべらないように敷いていた卵の殻のかけらで脚を傷つけ、
それがもとで死んでしまったらしい。
号泣した。あんなに泣いたことはそれ以後ない。
母と、たまたま休みで家にいた父親も、
ただただ、静観するしかなかったようだ。
泣きやんでから、親子三人で庭のまんなかにヒヨコを埋めた。
土に「ピーコのはか」と書いた板を立てたのを憶えている。
それから、しばらくして、朝、近所でにわとりのけたたましい鳴き声が
聞こえてくるようになった。
同じ日に買ってきたヒヨコが成長したのだという。
ほんとうかどうかはわからないが、
そのニワトリはとても凶暴で、家の人をけ飛ばし続けているという、
「大きくならなくてよかったね」
そんなことを母親がいったような気がするが、
いまひとつ、さだかではない。
ただ、その年をさかいにヒヨコを買って帰ることはなくなった。

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