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言葉の風
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立松和平、作家の顔

白金台の自然教育園を散策した帰り、
恵比寿界隈の高級住宅街に迷い込んでしまった。
よじったように緩やかに曲がった路地を歩いていると、
むこうからヨレヨレのレインコートを羽織った、
ボサボサ髪の男がやってくる。
こんな住宅街にホームレスの人とは場違いだなあ、と思った。
その足取りは夢遊病者のように心許ない。
近くでみると質のいい服を着ている。
道のほかにはなにも目に入らない視線をただよわせ、
ゆっくりと歩いてくる。
すれ違う際にその男の顔をのぞき込んだ。
男もチラリとこちらに目を上げた。
立松和平さんだった。
生気のない、力がすべて飛んでいってしまった顔。
遭難して生き残った船長の顔のようにうなだれていた。
こんなに憔悴しきった人の表情はみたことがない。
それから数ヶ月後、大著「道元禅師」が刊行された。
2007年の春だったか・・・、
おそらく執筆直後の散歩だったのではないだろうか。
命を削って書く作家の生の顔をみた瞬間だった。
立松さんの書いた本を読んだ記憶がない。
書いたものではないが、
ちょうど恵比寿の裏路地でみかけた年だったか、
スリランカ上座仏教長老スマナサーラ師と立松氏の対話をまとめた
『ブッダの道の歩き方』を買って読んだことがある。
それをまためくってみた。
2006年6月、神田山の上ホテルで行われた対談だ。
そのなかで、立松さんが、病で危篤状態がつづく母親のことで
悩み苦しむ言葉をくりかえし吐露している。
その後、御母堂はどうされたのかは知らない。
対話の終盤、「涅槃」の境地について話しているなかで、
立松氏は、こんな言葉を残している。
「・・・例えば死にゆく人が死を前にして、できるだけ穏やかに、
 死が喜びであると感じているのは人生の最高の形ですね。
 苦しみから出離していくと。
 そしてそのことによって本当に死ぬことが幸福になれば、
 これほど幸せな人生はない。それで人生は完成したということですね」
  合掌。

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