ウェブマガジン「この惑星(このほし)」 > 星ぼしブログ > 言葉の風

言葉の風
100227.jpg

ホッピーは青春の香り

早春のかたまりのような一品、
フキノトウの天ぷらを食べた。
まるまるとふとったフキノトウをかみ砕くと、
なんともいえない香りが、直接、脳にしみわたっていく。
苦みと甘さの絶妙なバランスに舌と心が一体となる。
年に1、2度、友に招待される蕎麦処がある。
東京・市ヶ谷の裏通りにあるのだが、いつも満席、
予約をしなければ入れない店だ。
蕎麦はもちろんのこと、酒の肴に絶品の料理の数々、
口にするものすべてに並々ならぬ気持ちが込められている。
店主は40歳そこそこの男子。
フレンチレストランのほうが似合っていると思える風貌なのだが、
器へのこだわり、毎日の品書きは自ら毛筆を揮うという、
和の道をゆく人だ。
魯山人だったか、ぬるい椀を出す女中をはげしく、しかりつけ、
何人もやめさせたとか。
この店では牡蠣の天ぷらは1個から注文できる。
つめたくなっていく牡蠣の揚げ物ほど悲しいものはないが、
ここでは熱々のものが寿司一貫のように頼めるのだからありがたい。
肉類は普段あまり食べないのだが、
白子のソースをかけた鴨肉のローストを口にはこんだときには、
肉そのものに感動した。肉に臭みがないどころか、
肉自体に香りがあることを知った。
鴨と白子という組み合わせの発想にも驚かされたが、
その美味に目から鱗が落ちる。
素材、味付け、創意、盛りつけ、器、タイミング、
非の打ち所がない。
茨城産をつかった蕎麦は、色、香りの繊細さに長け、
喉ごしのよさは格別だ。
店に入ってから出るまで、わが友にすべておまかせ。
19歳からのながいつき合い。
むかし話に花を咲かせたりもする。
土産に持たされる極上の生蕎麦。
絶対に揺らしちゃだめだぞ、と何度も釘を刺され、
電車のなかで大事に抱えながら、いつも決まって思い出すのは、
若く貧しい頃の酒浸りの日々。
とりわけまぶたに浮かぶのは、
大学裏のミルクホールや下宿近くの大衆酒場でよく飲んだホッピー。
われら青春の味といえば、ホッピーかもしれない。
ホップのかすかな香りと甲類焼酎のアルコールの漂い。
ホッピーは青春の香りなのだった。
ジョッキになみなみと注がれたホッピーに昼の日射しがキラキラと反射する。
そんな光景を夢見るように思い浮かべながら帰路につく。

カテゴリ:

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://konohoshi.jp/mt/mt-tb.cgi/200

コメントする