ウェブマガジン「この惑星(このほし)」 > 星ぼしブログ > 言葉の風

言葉の風
100302.jpg

指の鳥

ピーー、ピー。ピーー、ピー。
あまり聞いたことのない鳥の鳴き声で
目を覚ます。
ぼんやりとした頭のなかで、
高く澄みきった音が鳴り響く。
ああ、これは、指笛だ。
おじさんがやってきているな・・・。
窓辺に立つと、曇り空。
5階の部屋からは、裏山のなだらかな頂きがみえる。
木々のあいだに靄(もや)がまとわりついている。
山の下に湿地があるので、
そのあたりからガスがときどき立ち上がる。
ピーー、ピー。ピーー、ピー。
指笛が聞こえる。
それに応えて、ほんとうの鳥が喉を鳴らした。
ちょっと、おっかなびっくりふうの鳴き声で。
指笛のおじさんは森のなかに姿を没している。
昨日の夕方も緑道を歩きながら林へむけて
"指の鳥"を鳴かせつづけていた。
70歳ぐらいだろうか、鳥のほか眼中にない足取りで
いつも斜め上空、木々の繁りに視線を漂わせている。
裏山の下の池には、カワセミがやってくる。
初夏ともなれば朝からウグイスのさえずりが竹林を渡り合う。
この一帯は鳥に暮らしやすい環境にあるのだろう。
人にとってもそれはありがたい。
ウグイスの鳴き声を言語で再現するのは
正確さは別として、それほど難しくないが、
ふつう、鳥の鳴き声を人が真似するのは困難だ。
鳥の鳴き声に近くなればなるだけ、言語から離れていく。
人間には、オノマトペ(擬音語)という言語がある。
しかし、声帯模写の発する鳥の鳴き声は、
もはや言語の範疇ではないだろう。
オノマトペ(=擬)を越える、それそのものの領域にある、
と思う。
けさのおじさんのように、
擬音でもコミュニケーションしようという気があると、
鳥のほうが譲歩してくれるかもしれない。

カテゴリ:

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://konohoshi.jp/mt/mt-tb.cgi/203

コメントする