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言葉の風
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細江英公と大野慶人

「私がそのレンズの呪術によって連れ去られた世界は、
 異常で、歪められて、嘲笑的で、グロテスクで、野蛮で、汎性的で...」
三島由紀夫を被写体とした写真集『薔薇刑』に書かれた三島自身の序文の一節だ。
写真家は、細江英公(ほそえ えいこう)。
昨日、青山ブックセンターで行われた
「細江英公 スライドトークショー 大野慶人による舞踏」へ行ってきた。
写真集『鎌鼬(かまいたち)』(新装普及版・青幻舎)刊行を
記念してひらかれたイベントだ。
1969年初版の『鎌鼬』との出合いで細江英公という写真家に興味を持った。
つい最近のことだ。
三島由起夫の肉体を好き放題に扱った『薔薇刑』。
その過激な写真によるマニエリスムは、
かつてどこかで何度かみてきた映像でもある。
名前ではなく、映像ですでにこの写真家の世界に接触していたのだった。
春画のスライドを「アスベスト館」の若いダンサーの裸体に映写したり、
作家、埴谷雄高の自宅で大野一雄を飛ばせてみたり、
ベッドに仰臥した大野一雄の前で大野慶人の舞踏を出現させたりと、
そのアプローチは常にアバンギャルドで、ハプニング性に富んだものだ。
いったいどんな恐るべき写真家なのだろうと、胸を高鳴らせて会場にむかった。
早めに書店に着くようにした。日曜の昼前、店内はまだ閑散としている。
売場の一角に設けられた細江英公コーナーに立ち、写真集をめくった。
ポンペイ、アウシュビッツ、トリニティ・サイト、ヒロシマをテーマとした
作品集『死の灰』に衝撃を受けているとき、
「おはようございまーす」とおおらかな声が棚のむこうから聞こえてくる。
「きょうはよろしくお願いします」
レジの店員さんたちが挨拶をしているようだ。
開演50分前、細江さんが来たのだなとわかった。
恐るべき写真家の、あまりにも礼儀正しい声のトーンに拍子抜けした。
が、安心もした。
そんなものかもしれない。
文章では、人当たりのいいイメージを抱いていたが、
実際に接触してみると、木で鼻をくくったような対応の方もいることにはいる。
真逆のケースだが、まあ、それも表層のことだ。
その人の全体でもなければ、本質でもない。安心したのは―
近いうちに細江英公氏にお会いして話を伺いたいと思っていたからだ。
やはり、声がおおらかな人のほうが取材の際はありがたい。
機会を得られれば、1950年代から半世紀以上に亘って、
写真芸術の道を突き進んできた氏の発想や行動そのもののを聞いてみたい。
この日は、今は亡き舞踏家、土方巽を被写体とした『鎌鼬』の撮影時のことを
自ら語るというイベントだったが、もっともっと話してもらいたいと感じた。
それも併せていずれ実現したい。
この日は、『鎌鼬』へのオマージュということで、
大野慶人氏が土方巽が振り付けた舞踏を舞った。
慶人さんの舞踏をはじめてみる。
きれいに剃髪しており、傾いだ頭頂をながめると
鬼灯(ほおづき)のようにうつくしい頭蓋をしている。
どこかちがう星から布教にきた僧のような出で立ちだったが、
ハキハキとした声で語る、ユーモアと美にあふれる方だった。
お二人とも70歳を過ぎている。
このことも充分に刺激的な出来事となった一日だった。

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