ウェブマガジン「この惑星(このほし)」 > 星ぼしブログ > 言葉の風

言葉の風
100327.jpg

どろだんご

楽しい思い出、それもうんと楽しい、
思い出すだけで恍惚となる思い出。
それをできるだけたくさん持つことが、
ひとを未来へと生かす糧になるのではないか。
思い出のなかにだけ生きるのはいけないが、
過去の幸福感を追体験することは生きるうえで
とても大事なことのように思う。
現在が幸福である瞬間はきわめて少ないし、
夢見る未来は体験ではない。
「幸福体験」は、先を進むための燃料。
それもなんども使える無公害のエネルギーみたいなものだ。
だから、シアワセは、そのときだけの宝でないことを
ひとはよく知っている。
絵本『どろだんご』を見て、読んで、
とろけそうな幸福感がやってきた。
まさに、子ども時代のひとときがそのまま描かれている。
まるで、あの時の自分たちが、だれかに見られていたのではないかと、
思ったほどた。
穴を掘って、水を入れて、
「べちゃべちゃ にゅるにゅる ぺったんぺったん にぎにぎ」
どろをこねる。
どろだんご遊びには、トリセツもマニュアルもない。
テレビでも、本でも、もちろん学校でも教えてくれたわけではない、
この遊びのディティールがこうも共通するものかと驚いた。
― 神は細部に宿る。
「うめぼしがわりに いしころ いれろ」
「かわいた つちを さらさら まぶそ」
そうそう、砂もまぶしたぞ! 白ゴマだんごだ!
ひびが入ってしまった、だんごくんの登場には、
拍手を送りたくなった。
ぴかぴか、てかてかに光った、どろだんごは、
子ども時代の輝きそのものだ。
そういえば、
きれいなまんまるだんごをつくるヤツがいた。
いくつも、いくつもつくって笹の葉にのせていた。
そいつの夢中な表情、シアワセな顔が目に浮かび、
いまここに、その幸福感が自分のなかへとやってくる。
文を書いたひと、絵を描いたひと、ともに1950年代の生まれ。
日が暮れるまで外でたっぷり遊び続けた世代だ。
思い出がひとをシアワセにする魔法になるだなんて、
もちろん子どもの頃は、まったく考えていなかった。
幸福感をともなう思い出は、大人になってからよりも、
圧倒的に子ども時代に多い。
夢中という魔法の杖が、空の下で振られていただけでなく、
からだやこころが、
なにか大事なものをキャッチできる力に長けていたのだろう。
無意識のうちに絵本を手にとるのは、
もう一度、そのなにかをキャッチしたいという
たましいの働きなのかもしれない。

どろだんご (幼児絵本シリーズ)

カテゴリ:

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://konohoshi.jp/mt/mt-tb.cgi/218

コメントする