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言葉の風
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『アーティスト・ファイル2010』展へ行く

「言葉」はオブジェでもある。
言葉が絵画や造形の素材ともなれば、
それはもう"物"といってもいいだろう。
『アーティスト・ファイル2010』展(国立新美術館)へ出かけた。
7人の若手アーティストの作品を紹介する企画展だが、
そのなかで、福田尚代(ふくだ・なおよ)さんが提供してくれた空間に、
強く惹かれた。
まず、目に飛び込んでくるのは、
白壁の広いスペースに美しい明朝体の回文(かいぶん)のパネル。
祭壇を飾るがごとく広々と掲げられ、
否応なく「言葉と文字」の洗礼を受ける。
ここではコトバが主なのだ。
神聖なるオブジェなのだ。
ケースのなかに並べられた名刺、葉書、便せん。
そこに記された文字はすべて刺繍(ししゅう)で成っており、判読が困難だ。
この判読不可能性が、意味を放棄した文字の姿を浮かび上がらせる。
文字の別の存在感がそこにあるのだが、
それでも"伝達したい"という意念と
"伝達されたい"という無意識のブリッジは失われない。
ハッとさせられたのは、
彫塑されたり、裁断されたりした裸の文庫本だ。
ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』が、
背のところから4分の1のところでスパッと切断され、
柱のように立っている。
すばらしい思い出を残してくれた、あのSFの名作が、
本としての価値を失い、オブジェとしてそこに立っている。
そうした出来事に遭遇しているはずなのだが、
欠損した4分の3の空間に、もうひとつの『夏への扉』が、
未知の物語が、秘匿(ひとく)されているようで、
その異次元的な佇まいにハッとする。
カバー掛けされた1冊の本がそこに置かれていたら
こんな衝撃も空想も決して生まれない。
さらに―
ページ同士が密着しながらも、1行だけ顕わになった1冊の書物、
壁際にそうした不思議な書物がずらりと整列する。
その1行を1冊1冊、端から追うことで、
なにか物語りが発生するのではないかと、鑑賞者を歩かせる。
物語はいつまで経っても生まれてこない。
しかし、
1行が発露する力というものがひしひしと伝わってくる。
書き手が費やしたエネルギーを同等に感じることはできないが、
1行、1行、異なるオブジェの並列を眺めながら
伝わってくる適度な重みがここちよい。
重みの要素は、言葉の抽象性や文字という形状だ。
これもふつう、書物のなかであまり意識されないことだ。
言葉のオブジェ化でその"愛すべき重み"を
体験することができたような気がした。
また、彼女の回文は、神秘的な才気に充ち満ちており、
文字の流れそれだけでも、ただならない気配を放っていた。

『アーティスト・ファイル2010』展は、5月5日まで国立新美術館で開催。
  http://www.nact.jp/exhibition_special/2009/03/af2010.html

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