ウェブマガジン「この惑星(このほし)」 > 星ぼしブログ > 言葉の風

言葉の風
100420.jpg

『しずくのぼうけん』 マリア・テルリコフスカ作

万物の根源は水である。
そう説いたのは哲人ターレス。
ギリシャでは、万物の根源を、
水、火、土、空気の4つの元素とする考えもあった。
ヘラクレイトスは、「万物は流転する」ともいった。
仏教の「諸行無常」という観点に通じるような気がしないでもない。
ちょっと話がかたくなってしまったようだ。
水、火、土、空気という4大元素のなかで、
流転する姿がいちばん目にみえるのは水だろう。
水は雲になったり、雪、氷になったりする。
霧や靄(もや)、霰(あられ)になったりする。
湯気などは台所で毎日のようにみている。
洗面所で口をゆすいでペッと水をはき出せば、
水はたちまち排水口に吸いこまれていく。
これだって流転のひとつだろう。
1年に1度くらい、
このよごれた水はこれから先、どんな道筋をたどって、
どこへ行くのだろうと思うことがある。
マリア・テルリコフスカ作『しずくのぼうけん』は、
バケツから一滴のしずくが飛び出して旅をする物語だ。
道でほこりだらけになって、クリーニング店へ行ったり、
お医者さんのところで煮沸消毒されそうになったりと、
奇想な展開が楽しい。
太陽の下で蒸発、消えてしまったかと思えば、
雲に乗って、雲からふるい落とされたりもする。
氷のカケラになったり、川に流れてもいく。
やがて水道の蛇口から姿をあらわすが、しずくのぼうけんは、
まだまだ、つづく。ゆかいな物語だが、
この絵本には、なにか気づかせてくれるものがある。
いろんな環境のなかで"しずく"は、否応なく変化、翻弄させられる。
しかし、めげない。そして―
水という本質が、少しも変わらないということを教えてくれる。
ときがくれば、また元どおりの透き通った自由な姿に戻れるということを。
なんども、なんども"しずく"は、しずくに帰ってくる。
作家のテルリコフスカ、画家のボフダン・ブテンコは、
ともにポーランド人だ。
原書が刊行されたのは1965年という。冷戦時代だ。
冬、つめたいカチカチのつららになってしまった"しずく"。
春を待ち、暖かな大陽にとけて、ふたたび自由に旅することを
夢見るエンディングは、
旧ソ連の抑圧のなかでの抵抗と希望を語っているのかもしれない。
人は、時代というものに変化を強いられ、翻弄させられる。
はたして人は、水のように帰るべき自由な本質をもつのだろうか?

 

カテゴリ:

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://konohoshi.jp/mt/mt-tb.cgi/234

コメントする