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言葉の風
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これが最後のビートルズ

ポール・マッカートニー・・・。
かれのファンだった月日はじつに短かった。
ビートルズにハマってしまったのが1970年、14歳の夏。
あの夏、EP盤『LET IT BE』にいったい何度、針を落としたことだろう。
やがて遅まきながら『Abbey Road』を、『Rubber Soul』を手に入れ、
ギター、ベース、ドラム、ボーカル、コーラスが
生み出す歓喜の宇宙を知った。
その後、いろんなロックンロール宇宙と巡りあったが、
ビートルズが広げた満天の宇宙に勝るものはなかった。
いまも一曲一曲すべて星のごとく輝いている。
モシャモシャとヒゲをたくわえ、ピアノにむかうポール。
まぼろしの映画『LET IT BE』で、かれは不満だらけの王のようだった。
ジョージ・ハリスンがいじめられているのが痛々しかった。
よくしゃべる人とも思った。
けれどポールはビートルズサウンドの要であり、
圧倒的な音楽づくりの才能を持ち、自在なボーカルゼーションと
すばらしいベースラインを聴かせてくれた。
熱狂的なファンとなって束の間、
半年後の1971年春、ビートルズは解散した。
それほどショックではなかった。まだ聴いてないレコードもあったし、
聴き込むべき曲は山とあった。
最後尾のファンには遡る歴史も伝説もあった。
ただ、不仲という背景には驚きがあった。
ポールがビートルズを解散させ、
さらにジョンやジョージやリンゴを裁判で訴えているという。
この外電は、ポールという存在に大きな影を落とした。
ポール・マッカートニーがビートルズをつぶした。
影はシミとなって残りつづける。
それ以前、すでにビートルズは崩壊しており、
その収拾をつけただけだったのかもしれないが、
当時、そんな事情を知る由もなかった。
解散後のポールの音楽活動は別人のような力ないものに映った。
その後、ヒット作を出してはいくものの、
ポールの音楽には、なにか決定的なものが欠けていた。
精神性? 求道的なもの? 救済?
手っ取り早く言えば、"負"の経路がないところかもしれない。
不安、怒り、孤独感、かなしみ、憎しみ、怖れ・・・そんな負の溶岩を
ロックというカタルシス装置に流し込む川筋が、かれにはなかった。
そんなふうに感じてきた。
目の前はいつも草原と丘だった。
牧場(まきば)的ロック、脳天気なポップスといったら、
マッカートニーファンに頭突きをくらいそうだが、
「耐えられない存在の軽さ」があった。
いいね、ポールは。
40年間、自分のまわりからそんなせりふを聞いた憶えがない。
一方、ジョンはあらためて賛辞を送ることさえ憚れる存在だった。
さりげなく、ジョン・レノンの楽曲を流してくれることが
オーディオのある場所での"お点前"でもあった。
一昨日のことだ。
ひとけのないHMVのショップにふらりと入り、
試聴コーナーを回った。
1969年に録音されたジミー・ヘンドリックスの
未発表スタジオ音源集『Valleys Of Neptune』では、
天才の清々しい演奏ぶりにアタマをカラにしてもらった。
御年50歳、ポール・ウエラーも2枚組をリリースしてがんばっている。
同じコーナーにポール・マッカートニー『グッド・イヴニング・ニューヨーク・シティ』
(すでに半年前に発売されたライブアルバム)が置かれている。
義務感に近い思いで試聴の選択ボタンを押すと、
Back In The USSRが流れはじめた。
なんとビートルズそのもの。
ストレートなビートルズが走っている。
2009年夏のライブステージは、つづく。
 I'm Down、Something、I've Got A Feeling、Paperback Writer 
 A Day In The Life、Let It Be ・・・。
ビートルズナンバーのすばらしい演奏と歌に
自然に、そして俄然、喜びが湧き上がってくる。
ポールのボーカルは、枯れも萎(しお)れもなく、深みを増して、
ビートルズ時代、ウイングス時代に届かなかった領域を照らす。
Let It Beでは、初めて聴いた1970年の夏が猛然とやってきた。
不思議なことにオリジナルよりも、はるかにリアルで強烈な空気感だった。
ジョージのSomethingを取り上げたことにびっくりしたが、
アレンジがもうなんともいえない。
大胆ともいえるアレンジ、それが最高のかたちで
亡きメンバーへの思慕となって伝わってきた。
このSomethingが、自分のなかのポールを変えたことは間違いない。
67歳でビートルズを見事に甦らせたメンバー最後のアーティスト。
語り尽くせない物語りがこのアルバムにつまっている。
40年を経て、ポール・マッカートニーがふたたび輝く。
地平線で爛々と輝く。これが最後のビートルズ。
それでよし。

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