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言葉の風
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少年ヴァイオリニスト、山根一仁

舞台袖から弾かれたように少年があらわれ、
スタスタと中央に進み、
オーケストラの前に立った。
黒ずくめの細長いシルエット、
遠目からもイケメンだとわかる端正な顔立ち。
さらりとした黒髪が風もないのにしきりに揺れる。
右手にバイオリンをぶら下げ、晴れ晴れしく胸を張り、一礼。
期待3割、あとは物見遊山の気分。
5日、横浜みなとみらい大ホールで「こどもの日コンサート」が開かれた。
神奈川フィルハーモニー管弦楽団、横浜少年少女合唱団など、地元の音楽団体、
演奏家で構成されたイベントで、
客席は未就学児童とその父兄で占められている。
ザワザワどころか、演奏中もあっちから泣き声、
こっちから奇声というありさま。
それは承知のコンサート。
『白鳥の湖』や『動物の謝肉祭』『展覧会の絵』
超有名な作品のハイライトがつづく、
なんでも動物をテーマにしたオムニバスということ。
曲が流れはじめると空気は一変するが、
会場は休日の公園のように、にぎやか。
そして、コンサートの後半、館長、池辺晋一郎氏の紹介により、
その少年が舞台へとあらわれ、演奏がはじまった。
作品は、チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲』第3楽章。
第3楽章は、激しい主題からはじまる。
ヴァイオリンはのっけから全力で駆け出さなくてはならないが、
いけない。これはいけない。
気色ばむ音は空しく、会場が一気に冷える。
あとから、これがオーケストラとの初めての共演と聞いたが、
まだ、中学3年生という。
全国中学生部門第1位といっても、やはりこどもの技術。
シートに深く沈み、いったいどんな経過となるのか、
物見遊山の気分も失せて、心配になってくる。
ところが、中盤になると徐々に、前半、鳴らなかった楽器本来のもつ音色が
伸びやかに客席に流れ出してくきた。
せわしく雑だったリズムが、めくるめく疾走しはじめる。
シートから背が離れ、独奏と協奏に気持ちよく舞う少年に
ふたたび視線を落とす。
ときにあふれてくる官能的な旋律は、まちがいなく、
管弦楽団さえも感動させていた。
終盤は、激しい熱狂的な主題をわが道をゆくがごとく、
そして、力と確信に満ちた演奏でチャイコフスキーを締めくくった。
ブラボー! そっちこっちで喝采が上がった気がした。
実際、そうしたいと思った人もいたはずだ。
熱く長い拍手が少年を包み込んでいた。
少年の名は、山根一仁。
演奏することが楽しくて楽しくてしかたない、
その喜びが全身から放たれている。
これから本格的に研鑽を積んでいくのだろう。
まだまだ眠る輝きをいかに内から放射させてくれるのか、
かれの名を記憶に留めておきたい。

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