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言葉の風
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代々木の森の妖精

京都の北白川の森で撮った写真にふしぎな光体が映っていたことがあった。
伝説の仙人、白幽子(はくゆうし)が籠もったという伝説の山中だった。
「ヤマガカシがいるから気をつけまへんとな」
宿の人に注意されされたが、そこは人っ子一人歩いていない、
鬱蒼とした場所だった。今ぐらいの季節で草木は繁茂の真っ最中。
尾根のところどころで木々の隙間から京都の町が見渡せた。
もう、7、8年ほど前のことだ。
ふしぎな光体は道の上にきれいに浮かんでいた。
肉眼ではそうしたものは一切みることはなかった。
ダチョウの卵ほどの大きさでかたちは円に近い。
まっしろいその光体をモニターで拡大してみると、
まわりが紫色ににじんでいた。
霊験あらたかと感じて、名刺大にプリントしたものを
お守りのように財布に忍ばせていた。
先々週から先週にかけて代々木の森を三度訪れる機会があった。
一度目は、新緑を浴びるためだけに出かけた。
二度目は、たまたま参宮橋で仕事の打ち合わせがあり、
その帰り、奥の北門から入って正門へとぶらぶらと歩いた。
道々、あまり嗅いだことのない香りが鼻をかすめる。
木々の芳香ということはわかる。
前にこの森のほかの場所でうっとりとさせられた楠の香りとは明らかに異なる。
グルグル回る洗濯機のなかから上がってきた匂い?
いや、シャボン玉遊びをしたときの香りだ。
石けん水でつくったシャボン玉液の匂いだ!
遠い夏が頭の芯でふくらむ。
その時は立ち止まることなく歩き過ぎていったものの、
しばらくして、その香りが気になりだした。
いったいどんな樹木が、あのなつかしい香りを発しているのか知りたくなった。
数日後、代々木の森を歩いていた。
すぐにその木はみつかった。
道に小さな花がパラパラと落ちていてそこから香りはただよってくる。
落ちていた花と葉っぱを採取して写真も撮った。
遠路はるばるではないけれど、せっかく来たので
しばらく芝に寝ころび、空をながめて過ごした。
ツバメが夕空を高く低く舞った。。
その帰りのことだった。やや暗くなりかけた道の右手、雑木林から
シャボン玉が一個あらわれて、ふわり、ふわりと目の前を飛んでいく。
ぎょっとした。
こんなところで、こんな時間に、シャボン玉遊びをする奇矯な人はおろか、
あたりはだれもいない。
それに20メートルを越える樹木が茂る森のなかだ、
いったいどこからさまよい込んできたのだろう。
一瞬、あの木がシャボン玉を生んだのではないかとも思った。
シャボン玉は、道を悠然と横切って、
すーっと左手の雑木林へ吸いこまれていく。
その行方を追った。子どものこぶしほどの玉のなかを凝視した。
透き通った球体のなかに妖精でもいるではと、真剣にみつめた。
ブリューゲルの作品にたしかそんな妖精が描かれていた。
シャボン玉は雑木林の少し奥まで入り、雑草の葉っぱに当たってはじけた
いつまでも割れずに飛ぶシャボン玉があるのは知っている。
なにかに当たっても、くっついてなかなか割れない。
膜が強く特殊なので、しぼみでカスのようなものが残る。
あらわれたシャボン玉はきれいに消えた。
都心の森の一隅での出来事だった。
京都・北白川のときもそうだったが、
ちょっとした宝ものを手に入れたような気分だった。
樹液でシャボン玉を作れる「ヤトロファ・クルカス」という
木があるそうだ。舌をかむような名だ。
シャボン玉の香りがした木は、調べた結果、
「シナノキ」ということがわかった。
あっさりした名前だ。

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