ウェブマガジン「この惑星(このほし)」 > 星ぼしブログ > 言葉の風

言葉の風
100630.jpg

やあ、クサカメ君

「原っぱで風に吹かれていると、
 群生するヒメジョオンの一本が、ゆっくりと倒れていく。
 また一本、倒れていく。風ではない。
 ガサガサと地面の草が音をたてる。
 すわっ、大蛇が横切ろうとしているのかと、
 恐る恐る草をかき分けていくと、大きなカメが現れた」
  『言葉の風』2009.6.18
散歩をしていたら、丸刈りにされた原っぱの片隅に
カメが沈みこんでいた。28日のことだ。
ちょうど1年前、意外に俊足な歩みをみせてくれた、
あのクサカメ君ではないか。
草むらのなかにカックン、カックンと去って以来、
一度も会うことはなかった。355日ぶりの再会ということになる。
ごあいさつに近寄ると、首をひっこめて警戒する。
しきりに後ろ足で土をこする。
みれば、亀形の凹みにはまったかたち。
立ち上がろうとはせずに、
自らを象った土の上でからだをやっかいそうに動かしつづける。
ときおり、鼻息の音がもれる。なかなか大変そうだ。
ぶらぶらとやって来た人間などには計り知れない、
生き抜くための意味ある行動なのだろう。
早々にその場を離れた。
ここを「ドングリ山」と勝手に名付けているが、
カメが暮らす山ならば「カメの山」と改め、
ここに生きるクサカメ君に敬意を払ってもいいかもしれない。
「カメの山」の下にある、水が湧き、霧が立ち昇る湿地は「ネコの谷」だ。
「ネコの谷」には、6、7匹のいろんな種類のネコが野生化している。
ボスは肥満体のメインクーン。色違いのきれいな毛並みをした双子もいる。
そろそろ天に召されるだろう、ボロボロとなったやつもいる。
カメの山とネコの谷のあいだにちょっとした東屋がある。
数日前の早朝、そこでホームレスがいるのを発見した。
以前から、ホームレスが流れ着く場所でもあった。
路上生活に慣れた人たちが数日、あるいは数週間とどまり、
やがて、いつのまにか去っていく。
夜更けに酒盛りをするときもあった。
今回はこれまでとは様相が違った。若いカップルだった。
二人とも黒いフードをすっぽりと頭にかぶり、長いすに腰を下ろしている。
前方に視線を落とし憔悴しきった女性の白い顔。
男はがっくりと首をたれている。20メートルほど離れてはいるが、
その距離があっても、深刻な表情が生々しく伝わってくる。
これはとてもいけないと思った。
家へ帰り、ネットでまず自殺対策、自殺予防に関わる自治体、
公共機関の担当部署を調べ、いくつか電話をしてみた。
状況をそれなりに聞いてはくれるが、アクションが伴わない。
最後に他の関係部署の紹介で話は終了。
これではキャッチボールの玉だ。
区の老齢障害課へ電話を入れてみたら、
いますぐその場へ行ってくれるという。
しばらくしてから、あたりをくまなく探したが、
それらしい者はいなかったという連絡をもらった。
そして、ホームレスを専門に担当する保護課という部署を教えてもらった。
発見してから2日後、やはり早朝のこと、
東屋の椅子に例の二人が横たわって眠っていた。保護課に電話する。
その後、保護課の係長が仕事前の朝に東屋へ出向き二人と接触してくれた。
歳は二人とも30代前半ぐらいだという。話掛けてみたところ、
思い詰めた感じではなく、比較的元気だったと報告してくれた。
施設へ入ってもらうこともできるが、切り出し方が難しいという。
たいてい、そうしたところに入りたくなくて、
路上生活者になってしまうのだ。
今後は、二人を観察しながらコミュニケーションを図っていくという。
担当者の迅速な行動に感心した。
その職務遂行ぶりに敬意を払いたい。
「カメの山」と「ネコの谷」の中間地帯で起きた出来事だった。

カテゴリ:

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://konohoshi.jp/mt/mt-tb.cgi/289

コメントする