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言葉の風
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芸術・芸能のメッカ「日比谷公会堂」

カレーで名高い日比谷公園『松本楼』のすぐ脇に
通り過ぎる人たちに思わず感嘆の声をあげさせる木がある。
地上から130センチの位置で幹まわりが3メートル以上ある木を巨木というが、
この銀杏は、そのスケールをおそらく超えるものだろう。
じっとしているのに躍動している。
大樹のすさまじい生命の相に、蛇ににらまれたカエルではないが、
皆、その場から動けなくなってしまうようだ。
そこから南へ、国会通りの方向へ園内を進むと、
赤茶けた煉瓦造りの古めかしい建物に行き着く。
日比谷公会堂だ。
こちらはそうとうに疲れた風情だが、味がある表情だと思う。
昭和4年に落成されたというから、御年81歳となる。
昨夜は、前年からつづいていた80周年記念事業のフィナーレとして、
井上道義指揮、NHK交響楽団による
『ベートーヴェン交響曲第9番』が上演された。
残念ながら会場へは足を運べなかった。
それでもレトロ感のあるポスターを目にして、なんとなく和んでしまった。
秋空のように青いポスターは、 これも記念事業の一環なのだろう、
建物の1階にある「アーカイブカフェ」と名付けられたスペースの一角に貼られてあった。
"カフェ"は、昭和初期を舞台とした映画セットのような趣があっていいが、
あまりにも即席な場づくりで、珈琲など頼める雰囲気ではない。
当然のこと客もいない。
一方、閑散としたスペースの煤けた壁には、錚々(そうそう)たる面々が、
フレームに入れられ、最高潮の表情をして、「時」を止めている。
ここ日比谷公会堂の舞台に上がったアーティスト、エンターテイナーたちだ。
ルービンシュタイン、リヒテル、カラヤン、アダモ、ジョルジュ・ムスタキ、
ニニ・ロッソ・・・壁に掲げられたその年譜を眺めれば、
少なくとも昭和という時代において、日比谷公会堂という場所が、
間違いなく日本における芸術・芸能のメッカだったことがわかる。
カザルス、ギーゼキング、ストラビンスキー、エラ・フィッツジェラルド、
スタン・ゲッツ、レス・ポール、まさにきら星・・・挙げればきりがない。
この地、この場所には、
星々が渦巻く銀河のような無形の歴史が湛えられている。
しかし、遺憾ながら、ここを訪ねて、
そうした価値に対する認識がされているとは到底思えなかった。
素人が片手間に資料をスクラップしただけのおざなりのアーカイブである。
日比谷公会堂は、なぜか東京都建設局緑地公園部の管轄下にあり、
また実際の管理運営は文化・芸術に縁もゆかりもない民間の指定業者が行っている。
倉庫には、これまで開催されたプログラムやポスターが山積しているという。
宝の山というか、文化財に等しいものだと思うのだが、
どうやらそのまま放置されているらしい。
早急にしかるべき整理と保存を行い、可能な限り広く一般に公開してもらいたい。
星が泣いている。こちらも泣きたくなった。

 

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