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言葉の風(編集長ブログ)


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真夏、海、バス

逗子駅前から出たバスは商店街を抜け、
黒い川を越えたり、黒い川に沿ったりしながら
海岸通りへとむかっていく。
エアコンを最大限にしているのか、
通気口から吐き気がするほど冷風が頭に吹きつけてくるが、
バスは太陽に容赦なくあぶられ、満員の車内に人いきれが充満する。
沿道にはビーチサンダルをずらりと並べた売店。
浮き輪も軒先に所狭しとぶら下がって、
何かしら夏休みが永遠に続きそうなムード。
砂浜でバーベキューパーティをするのか、
スーパーの袋にめいっぱいの食材をつめこんだ若者グループ。
汗も瞳もキラキラしている。
クーラーボックスがガチンと床に座り込む。
やがてネコの額のようなちいさな浜が車窓に現れては消えていく。
「葉山マリーナ」を過ぎたあたりから乗客は半分に減る。
車内は肌のしろい人々に占められる。
海にじっと目をこらすと、思ったほど汚れてはいない。
いや透明だ。ブラックサンドでもない。
でも、どこかの庭のような海辺。
襲いかかってくる日差しと冷房、そして、
だるい肉にねむい頭。
この現象、夏ゆえに許せる。
夏は苦痛も郷愁のひとつ。
けれど、この苦痛、年ごとに新鮮になるようだ。
岬へむかい、岬をはなれ、バスはうねうねと走る。

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虹に願いを

夕方近く、空に虹があがった。
1年ぶりにみる虹。
きれいに半円を描いている。
デジカメでチッチッと撮っているとみるみる
色あせて消えていった。
さっと出てきて、さっと消えていく。
その刹那がいいと思った。
虹があまり長く空に架かっているのはつまらない。
そういえば20代の頃、荻窪、吉祥寺、三鷹と中央線沿線に
暮らしていたが、よく電車の車窓から虹をみた。
中央線は高架なので視界がひらけている。
そのせいもあるのだろう。
たまたまのことかもしれないが、
たいがい虹は根元をみせるだけで、
半円を描くどころか、その半分の姿もあればいいほうだった。
けっこう太く、がっちりとした虹のカケラだったと記憶する。
吉兆とはいうが、願い事をする対象ではない。
にもかかわらず、知らず知らず、窓の外に目を凝らし、
なにかを願っていた。祈っていた。
なにかとは「誰かいい恋人(ひと)ができますように」
ということだった。そのことだけで、あの頃はいっぱいだった。
そんなことも忘れそうなほど、年月が経った。
にじ、きれいだなあ。いまはそれだけ。
ひょっとすると言葉も、思いも湧いていないのかもしれない。
あっ、と無音を胸のあたりで発し、そして―
チッチッとデジカメのシャッターを切っているだけなのかも。
もう0時を回るが、これから夜明けにかけて、
ペルセウス座流星群がピークを迎えるという。
去年は3個、ながれ星をキャッチした。
今年は見えるか、起きられるか。
あっ、と発することができるか。
星に願いはないが、
流れれば、夢中になることは間違いない。

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森の匂い

このひと月ほど嗅覚がない。
アレルギー性鼻炎がその原因だ。
この時期だとブタクサに反応しているのか。
鼻炎でなければ、
ヒトサマの倍は嗅覚に優れていると思うのだが、
年がら年中、鼻がきかなくなる状態にある。
香りを感じられないのはさびしい。
まあ、いやな匂いもわからないので、
この季節、満員電車で汗の匂いに不快となることもない。
けさは、実家の近所にある「県民の森」へでかけた。
昨日までの炎暑がうそのように涼しい。
だれもいない森の道。
沼や池が点在しているせいもあり、
蚊が多く、さらにブヨ、ハチまでがどこまでもまとわりついてくる。
この森は、元禄時代に山火事で丸焼けになったそうだ。
森の奥にある創建1300年の神社の縁起を読んで知った。
大木が少ないのはそのせいだろうか。
スギやヒノキなどを植林した暗い斜面と
自然の植生、広葉樹林帯の鮮やかな緑が対照的だ。
森が喜ばせてくれるものはたくさんあるが、
そのひとつに色彩がある。
場所の位置や形状、草木の繁茂状態、
主人となる樹木の種類という基本状況に
季節の移り変わり、その日の天候という変化が加わって
ときおり森の色は、息をのむほどドラマチックになる。
崖下をゆったりと曲がる隘路(あいろ)から、
視界がひらけて、灰色の林が出現する。
象の皮膚に似た樹皮の木々がいっせいにこちらを見た、
ような気がした。
池の畔では、蔓や葉や枝がエネルギッシュに絡み合って、
ブラックホールのような暗黒の穴をつくっている。
見つめても見つめても黒い空間が静まっている。
谷の湿地に淡い緑のビロードが敷かれている。
草の色彩のやわらかさに視覚が呼吸しはじめる。
そのとき、憶えのある甘酸っぱい香りが鼻孔をかすめた。
カツラの木だ。
姿を見つけられないほど、まわりは木々に満ちている。
小1時間の森の歩行が嗅覚を少しだけ目覚めさせたようだ。
帰路、最後の巻き道、
土と水と光と緑・・・森全体のエッセンスが一瞬、
頭部を通り抜けていった。
森の五感と同期した。

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