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Today's Shot / 言葉の風

2009年11月01日
Today's Shot
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言葉の風

4年ほど前に信濃町の佐藤美術館へ「岡村桂三郎展」を観に行ったことがある。
塀のような何枚もの板に岩絵の具で描かれた「白澤(はくたく)」という
中国伝説の聖獣が圧巻だった。
鱗のような皮膚のあっちこっちに大きな目をひらいた怪異な姿、
木の質感と岩石の成分がいのちを吹き込んでいるようだった。
絵本の原画も展示されていた。
能の「海士(あま)」を原典にした物語を描いたものだった。
会場でその絵本『海女の珠とり』が販売されていたので買って帰った。
読み出すとすぐさま物語に捉えられた。
長い歴史を生き抜くべきして生まれたストーリーだ。
いまふたたび読み返しても引き込まれる。
中国の皇帝から授かった大切な3つの宝があった。
ひとりでに美しい音を奏でる華原馨(かげんけい)という石の楽器、
水が常にしたたる泗浜石(しひんせき)という硯、
そしてなかに仏さまが入って、
どこから見てもそのご尊顔が正面をむく面向不背(めんこうふはい)の珠。
ところがその面向不背の珠が竜に奪われてしまった。
珠を奪い返すためにある高官が海の村に赴く。
そこでひとりの海女の娘と出会って結ばれる。
しかし、任務は果たさねばならない。
海深くもぐり竜王たちと戦って珠を取り戻したのは海女だった。
しかし、海女は死に絶える。夫のために身を捨てたのだった。
それを後の世に知った海女の子がその地を訪ねる。
子は父を継ぎ、すでにりっぱな位に就いている。
そこで幽霊となってあらわれた海女と会う。
母との再会。まさに亡者鎮魂、能の世界だ。
海女とともに、
海で命を落としたたくさんの人の魂も成仏させて物語は終わる。
能を観て泣いたためしはないが、
この絵本にはホロリとさせられる。

see you tomorrow!

海女の珠とり―海士 (お能の絵本シリーズ (第1巻))


2009年10月31日
Today's Shot
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パンを買いにいく、土曜日の朝がすきだ。
店は7時に開く。店まで片道1キロ半の道のり。
「緑道」と呼ばれる遊歩道を急ぎがちに歩く。
べつに売れきれる心配はないのだが、
おいしいものは心拍数を上げる。
できたての角食パンのうさぎのような白さ、
やわらかさ、あたたかさ。
早足が心拍数を上げるのではなくて、
早鐘のような心臓が足を急がせる。
ドングリを踏みつぶし、蹴り飛ばしながら
朝日を背に受け黙々と歩く。
そんなときでも頭のなかでは、
約束をやぶった男のことを急に思い出したり、
今日すべき細々とした仕事の雑用を反芻している。
目が覚めていても夢をみているのではないかと
思えるほど突拍子もないことが、
過去のどうでもいい光景や会話がよみがえる。
そしていまも、歩行とあわせてめくるめくように。
すがすがしい朝、アップダウンのほどよくうねった美しい道を
目的もあきらかに、浮き浮きと進んでいるというのに。
頭のなかの手におえないフリーなやつは、休むことを知らないようだ。
「チン!」オーブントースターが音を立てる。
8枚切りの一枚の重さ、手のひらに乗ったこの軽さが土曜日だ。
サクッとした噛みごこち、甘い匂いが鼻から天まで抜けていく。
この瞬間だけは、誰もいない。たぶん自分もいない。

see you tomorrow!


2009年10月30日
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言葉の風

星の下にうまれる、という言葉がある。
星は人の運命を司るものとして、
古今東西、太古から人間に
特別の感情を抱かせてきた。
自分が生まれ落ちた日に自分の星があてがわれる。
どこの民族かは忘れてしまったが、
たしかそんな民族があったように記憶している。
だれもが天空に自分の星をもっているのだ。
ちょっと羨ましい話だ。
ときどき、パッと深夜にめざめて窓辺にたつと
星がぎらぎらと輝いていることがある。
たいがいそれはシリウスなのだが、
明けの明星、金星のこともある。
目が覚めたばかりで瞳孔が小さくなっているせいもあるが、
強い刺すような光に慄然とする。
そんなとき星から呼ばれたな、と思う。
数日前、遅い夕食のあとに夜空をながめていた。
すみきった空にきれいな綿雲が流れていく、いい晩だ。
南の中空から天頂のあいだにほのかな光を放つ星があり、
その星から目が離せなくなってしまった。
そのうちに顔がほころんできて、ニコニコとしてくる。
どうしたんだろう。なにか思い出したわけでもなく、
いいことがあったわけでもない、
ただ、おさえきれない笑みが顔にのぼってくる。
家人に見つからないようにニコニコと笑いつづけていた。
星はどうも天王星らしい。笑いと天王星と
てんやわんやの一人の地球人にどんな関係があるかはわからないが、
あまりに気持ちよかったので、
この星を自分の星にすることにした。

see you tomorrow!


2009年10月29日
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怪演ではない。
どんなドラマからもはみ出してしまうような個性。
しかし、役からぶれているわけではない。
それどころか、ものすごい吸引力で
映画がその役を中心にまわりだしてしまう。
それが、樹木希林という女優。
比較すべき女優がいないほど、独自な存在だ。
でも、似たようなキャラクターが世間にはいる。
これまで会ったことがなくてもいそうだ。
是枝裕和監督『歩いても歩いても』をDVDで観た。
小津安二郎へのオマージュかとも思えるほどの、
典型的なカットがいくつか。
素材は家族。淡々としたストーリー。
“小津の味”そのもの。
そこに杉村春子ならぬ樹木希林が登場するのだが、
ふしぎに調和してしまうのが面白い。
いや、すごい。どちらも毒をふくんだキモというところで共通する。
廃業した町医者役の原田芳雄。
これほど医者が似合わないひともいない。
老いてもアウトロー、それが確認できたことで満足。
見終わったあと、これが映画館ならと思った。
一歩、外に踏み出したときに感じる、あの幸福感が
この映画にはある。

see you tomorrow!


2009年10月28日
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富士山は雲をまとっていたが、
丹沢山系がくっきりとした姿で西によこたわる。
駅前広場からの清々しい眺望を味わって、
取材先へむかう。場所は神奈川の西南部。
私鉄ローカル線を乗り継いで駅に降り立つと、
出がけにみた丹沢がぐっと間近にせまる。
けれど、山が近いから自然に恵まれているというわけでもない。
都市部から離れているから静かな環境だということでもない。
低層マンション、コンビニ、ファミレス、パチンコ店、
大きな工場に小さな工場、広い産業道路に狭い旧街道。
首都圏郊外のよくある「殺風景」が地上に貼りついている。
晴天が似合わない、かなしい風景だ。
デコボコした街からのぞく山が、聖地にみえる。
途中、電車から沿線の風景を眺めていると
灰色っぽく敷きつめられた住宅地にときおり
緑の小山がぽつんぽつんと残されているのを発見した。
鎮守の杜かもしれないし、古代遺跡かもしれないが、
砂漠のなかの小さなオアシスのようにみえた。
便利なものは無駄なほどあるが、
都市の人工物に美しいものをみつけるのはむずかしい。

see you tomorrow!


2009年10月27日
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つぎからつぎへと本が飛んでくる。
そして、飛び去っていく。
新刊も、見逃していた古い本も、自宅の書棚に入っていた本も
その流れにまざっている。
つかまえないと、どこかへ行ってしまう。
かくして、読みたい、読み直したい本が、
あっちの机、こっちの机、椅子の上、食卓、
下駄箱の上に積み重なっていく。
なかにはもう1年以上そのまま開かれずに
置かれているものまである。
積読、乱読、そして散読。
未消化の本が自分のなかにかぞえきれないくらい詰まっている。
下剤を飲んで一気に消化したい感じだ。
つい最近も自己嫌悪に陥ったばかりだが、直らない
あとで読むという考えはすてることだ。
その時、読めるところまで、疲れ果てるまで読むっきゃない。
読書もいいが、こんな天気のいい日は
散歩のほうがすてきだ。
もちろん本をもって出かけるが。
まず、読むことはない。これからは、
木陰で1ページだけでも読んでみよう。
そのまま止まらなくなったら、
樹のように立ち尽くしながら読み進めていこう。
本は消化するものではない。
かぎられた時間を明晰に燃やすためのものだ。

see you tomorrow!


2009年10月26日
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言葉の風

6年前に買ったDVDレコーダーが壊れたので新製品を購入した。
まずはメーカー・機種を選ぶのに一苦労。
記憶容量や機能については製品のパンフで理解できるから問題ないのだが、
周辺機器との接続とその出入力端子の有無で混乱。
CATVに加入しており、テレビモニターとの間に
レンタルしている専用チューナーが入る。
これが曲者で、すでに生産中止になっている古い型。
HDMIというデジタルAVに必携の端子がついていない。
対応する上位機種はすべて買取となっており、しかも高額、
持ち家なら買取でもいいが、そうではない。
市場を独占しているCATV会社のきたない商売に怒り心頭に発する。
この旧型チューナーのおかげで、
DVDレコーダーの選択はかなり限定されてしまう。
ハイビジョン録画するためにはi-LINK端子がなければならない。
それが高額機種にしかない。メーカーに問い合わせると
i-LINKには相性があり、接続する機器が同じメーカーでないと
問題が発生するかもしれないという。
さらに同じメーカーでも
CATV会社が提供しているチューナーが古すぎて検証対象からはずれており、
保証のかぎりでないという。
そのほかにも端子あるが、背面にないなど次から次へと障壁が。
近所の大型家電店へ行き、
対面でいろいろと親切に相談に乗ってもらうも解決できない。
メーカー各社、CATV会社へいったいどれだけ電話をしたことか。
ネットもフルにつかって情報を仕入れ、やっと機種を決定。
購入先はお世話になった家電店にしたかったが、
ネット通販では家電店より3万も安い。背に腹は代えられない。
ネットで購入、クリックひとつで翌日の午前中に無事到着。
後日、家電店へ行き販売員さんを絶賛する投書を
お客様の声ポストに入れておいた。
そして、いよいよ接続。
この方面に自信のある家の者がさっそうと取りかかるものの、
いっこうに埒があかず。半日以上の戦いとなった。
疲労困憊。町の電気屋さんに再登場してもらわねばならない。
家電もソリューション時代となった。

see you tomorrow!


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