2010年8月17日掲載

スペシャルインタビュー Vol.4 己を超え、世界を包括的にデザインする 現代アーティスト 鴻池 朋子さん(第2回)

「自分に何かがあるわけじゃなくて、人との関連性という状況に置かれたことによって、自分に眠っていたものがすっと出る人だったんですね」(「インタビュー第1回」―絵を描くことが第一ではありません)
自らをそう語った鴻池さんの言葉に少なからず驚かされた。アートというのは、強い自己表現欲、ある意味で強力なエゴがなければ、生み出されないものではなかろうか。美術家というとアトリエに閉じこもり、ひとり黙々とキャンバスに向かうイメージがある。「実際に絵を描いている時間は1割、9割は全体のデザイン作業」と鴻池さんはいう。人のアイデアで自分のエネルギーが湧き上がるのだとも。己という人間の内面を表出する孤独な戦い―そんなアートに対する固定概念が今回もみごとに吹き飛ばされた。

(構成・インタビュー/大島憲治 撮影/小島マサヒロ

第1章

第1章 / 2006 / アクリル、墨、雲肌麻紙、木パネル / 220 x 630 x 5 cm / 撮影:中道淳(Nacasa&Partners)

異質なものがぶつかり合うときに生まれる摩擦エネルギー

――いろんなモチーフが組み合わされているところに鴻池作品の特徴があります。ギリシャ神話の半獣半人じゃないけれども、少女の脚とオオカミが合体されていたりとか。『第1章』※では、水晶とオオカミの尻尾みたいなものが結合して、無機物と有機物が一体となった生命というか。考えられないモチーフ同士の合体に驚いてしまいますが、それがさらに他のものと混じり合いながら合体していきますよね。『第4章 帰還―シリウスの曳航』になると、複数のオオカミがおにぎりのようにひとつに固まって、少女の脚がニュッと伸びていて、昆虫の羽が広げられて、なおかつナイフの波しぶきまでがそこに巻き込まれていて。
とにかく異質なものが躊躇(ちゅうちょ)なく結合されていくシーンを目の当たりにしたとき、ああ、鴻池作品から受けるエネルギーというのは、異なるものを排除したり、拒否したりすることではなく、いろんなものを飲み込んでいく、そういったパワーではないのかな、と思いました。混在への渇望というか。そうしないでは生きられないという・・・。

※「物語シリーズ」と呼ばれる連作で、『第4章』から描き始められ『第1章』で完結する。横6.3m、縦2.2mの大作。

「異質なものがぶつかり合うときに生まれる摩擦エネルギーというのかな。オオカミとか、ナイフとか、尻尾というのは、観客の中にある共通の概念ですよね。形も多くの人たちの考える、ステレオタイプのものなんです。それら共通のものにまずきちんと反応しないと、摩擦が起こるという現象や共感は得られないわけです。だから、みんなが好きなものが、私もやっぱり好きなんですよ。私だけが特殊なもの、特別なものを好きなのではない。みんな好きなもの、そういうものをぶつかり合わせていくと、摩擦が起こってエネルギーが生まれてくる。玩具の世界では、合体とかデフォルメとか、自然にやりますよね、テレビに足が付いていたりとか。それこそ、男の子の戦隊ものは合体シリーズだし、飛行機と人間が一緒になったトランスフォームとか。あれと全く変わりないことだと思います。だから、絵のモチーフの組み合わせ方は非常に単純な構造なんですね。」

第2章 巨人

第2章 巨人 / 2005 / アクリル、墨、雲肌麻紙、木パネル / 220 x 630 x 5 cm / 撮影:木奥恵三

絵を描いているのは1割、9割は全体のデザイン作業

――あれらの作品は、「物語シリーズ」とも呼ばれています。ひとつの作品が、横6.3m、縦2.2mという、アクリル絵具と墨による大作ですね。完結までにどのくらいの期間が費やされたのですか。

「『第4章』からスタートして最後の『第1章』まで、1年半くらいであの4枚を描いたんですが、最後はもう息切れしながら描いていました。それは、内なるものが出てきたというよりも、めちゃめちゃ作業してたという感じです。最初に『第4章』をつくってしまう、という仕掛けはよかったのだけれど、『第2章』『第1章』になったら、時間もないし、とにかく描かなきゃというだけでした。でも、そのときしか描けなかった感じはありますね。1年半という短い期間だから集中できたというか。」

――そのあいだは、この「物語シリーズ」だけに取り掛かっていたのですか。

「いえ、例えばミラーガラスのオオカミ(※)とか、そのとき制作していましたし、ほかにも作品をつくっていましたね。個展もグループ展もありました。展覧会というと絵を描いて飾るだけというイメージがあるかもしれませんが、実際に絵を描いている時間というのは、ほんの1割ぐらい。9割がたは全体のデザイン作業です。」

※『惑星はしばらく雪に覆われる』(ミクストメディア)。現代美術のコレクターとして有名な高橋龍太郎氏が現在所蔵している。

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