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CINEMA REVIEW ミニシアターへの誘い

2010年10月28日掲載

生き抜く気になれば、何だって出来る!

ルイーサ

ルイーサ


【監督】
ゴンサロ・カルサーダ
【出演】
レオノール・マンソ / ジャン・ピエール・レゲラス

愛猫の死、そして突然の解雇

アルゼンチンの首都ブエノスアイレス。夫と幼い娘をずいぶん前に亡くし、孤独に暮らす60歳のルイーサ。家族と呼べるのは愛猫のティノだけ。そんな彼女は、毎朝早くに起きて、地味な服装とシンプルな髪型で、同じ時刻のバスに乗って仕事に出かける。霊園の事務所で、ほとんどかかってこない電話の前で一日を過ごした後、往年のスター女優の家に行って、お手伝いとして働く。贅沢もせず、他人との交流をなるべく避けるルイーサは、規則正しく繰り返される、静かな自分だけの世界に生きていた。
ところが、そんな生活は一変する。ある雨の朝、ティノが死に、30年も勤めた霊園(しかもあと1年で定年だというのに)を突然解雇され、そのうえ20年続けてきたお手伝いの仕事までクビになってしまうのだ。退職金も支払われず、貯金もない。手元にあるのはわずか20ペソほど(約500円!)。
途方に暮れていたルイーサだが、初めて利用した地下鉄で、今まで知らなかったお金の稼ぎ方を目の当たりにし、わずかな希望を見いだす。ティノを埋葬してやるためにも、とにかくお金を稼がなくてはいけない。ルイーサは早速、地下鉄に乗ってお金を稼ごうとするが、ルイーサが考えていたほど、その世界も甘くはなかった―。

「ドン底」人生の果てにあるのは―

ルイーサ地下鉄の通路で様々な物を売って稼ぐ人々。地下鉄の乗客に訴えかけて稼ぐ人々。ホームで楽器を演奏して稼ぐ人々―日本では見かけない光景だが、海外の地下鉄では日常的なシーンだ。一見、簡単に稼げそうに見える仕事だが、そうはうまくいかないもの。この世界にはこの世界のコツやノウハウがいるし、縄張りだってある。ただ缶を持って立っていれば小銭が貯まる、今の世の中それほど豊かな経済状態ではない。
ルイーサは20ペソを使って、そんな世界に乗り込んだ。霊園のマネージャーに「退職金を払って欲しい」と訴えることすら出来ない小心者の彼女だったが、新しい世界で、意外にもへこたれずになんとか稼いでやろうと必死に行動する。ルイーサは片足を失ったオラシオという新しい友人とも出会い、いよいよ活き活きと生き始めるのだ。
そして私たちは、彼女の人生の「ドン底」とは、愛猫と仕事を失ったあの雨の日にあるのではなく、夫と娘を失ってから今までの彼女の人生がずっと「ドン底」だったのだということに気づかされる。何度も挿入されるルイーサの悪夢は、彼女が生きる決意をすることで現れなくなる。そしてラストシーン、ブエノスアイレスの空に消えてゆく煙は、彼女の過去への執着がようやく浄化されるのを象徴しているかのようだ。

辛気臭さを乾いた風で吹き飛ばす

それにしても、生きるには本当にお金がかかる。あらためて現実をまざまざと突きつけられた気がする。失業、孤独、老後の不安・・・この映画は、暗鬱な気分になりそうな、出来れば直視したくない要素を内包している。けれど、ルイーサを演じるレオノール・マンソ、それに、本作が遺作となったオラシオ役のジャン・ピエール・レゲラスの絶妙な演技が、辛気臭さを乾いた風で吹き飛ばす。さらに、現在、映画やCM曲で脚光を浴びるスーペル・チャンゴのユニークな音楽も多大な貢献をはたし、本作は思わずクスリと笑ってしまう作品に仕上がっている。
「死ぬ気になれば何だって出来る」とはよく言うけれど、じつは違うのではないか。そんなことをこの映画は考えさせる。生きる気にならなければ、動き出せない。けれど生きようとすれば、いつだってすぐに人生は回転し始める。そして何かを始めるのに、遅過ぎることも早過ぎることもないのだ。今日を、明日を生き抜く勇気が湧く一作。

文・平林ミカ


監督 ゴンサロ・カルサーダ
出演 レオノール・マンソ / ジャン・ピエール・レゲラス
製作年 2007年
2008年 アルゼンチン=スペイン / 35mm / カラー / 110分
公式サイト http://www.action-inc.co.jp/luisa/
渋谷・ユーロスペースにて上映中

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