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CINEMA REVIEW ミニシアターへの誘い

2010年8月26日掲載

この映画は、何かを変えるかもしれない!?

ペルシャ猫を誰も知らない

ペルシャ猫を誰も知らない


監督/ バフマン・ゴバディ
キャスト/ ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャード、ハメッド・ベーダード

ロックもラップもポップスもことごとく禁止

欧米文化に対する規制が厳しいイラン。首都テヘランで、当局から隠れて音楽活動をする主人公のアシュカンとネガルは、これまで何度も逮捕、保釈を繰り返してきた。この国では自由に音楽をプレイすることができない。音楽をやるには、この国を出るしかない。バンドメンバーを集めて、ロンドンに行ってライブをしよう――。二人はそう決意する。
だが、イランを出るためにはパスポートやビザを入手しなくてはいけない。そこで二人は、便利屋のナデルを頼った。彼らの音楽に惚れ込んだナデルは、偽造書類をそろえてやる一方で、二人を様々なミュージシャンに会わせていく。フォーク、パンク、ヘビーメタル、ラップ、ブリティッシュ・ロック、伝統音楽――。様々なミュージシャンと出会い、無事にメンバーをそろえた二人は、ナデルの薦めでロンドンに旅立つ前に、秘かにライブをすることになったのだが・・・。

ペルシャ猫を誰も知らないこれは、現代のイランの話だ。ハリウッドやヨーロッパの映画は公開されず、テレビ番組も厳重に規制されている。音楽も同じで、ロック、パンク、ラップ、ポップス――西洋音楽はことごとく禁止。当局の検閲を通らなければCDは発売されないし、ライブどころか練習することも許可されていない。演奏しているのを通報されて、無許可でロックバンドなんかやっていることがバレようものなら逮捕されてしまう国だ。警察がライブ会場に踏み込んで、バンドマンだけでなく観客たちも逮捕するという事件が、実際に何度も起きている。
今の時代にそんな政策がとられているなんて?!と、ちょっと疑わしくなってしまったのだが、本当らしい。とにかくイラン政府は、ことごとく欧米文化排除を方針としているのだ。
だからといって、人々がおとなしくしているわけがない。当局の目をかいくぐった違法コピー映画が世間に出回り、衛星放送を違法受信して、人々は海外のテレビ番組を見ているらしい。インターネットも警察によって監視されているようだが、どこまで「監視」が有効なのやら。はたして、どんな抑圧があろうとも、なんとかして禁じられたものを入手しようとする逞しさが、イランには健在のようだ。

自由を求める多様なジャンルのミュージシャンが登場

ペルシャ猫を誰も知らないこの国ではペットを飼うこともヨシとされず、外に連れ出すのも禁止されているらしい。そんな、かつて「ペルシャ」と呼ばれたイランで、まるで、気高くて人気高い猫なのに家の中でひっそりと飼わなくてはいけない「ペルシャ猫」のように、才能があっても陰に隠れて音楽活動をしなくてはならないミュージシャン。そんな意味が、タイトルの「ペルシャ猫」には込められているという。
プロの役者は便利屋のナデルのみ。主人公のアシュカンとネガル、その他のバンドマンたちは、皆、本物のミュージシャンだ。つまり、イランの今のミュージックシーンを映したドキュメンタリーが、フィクションと融合した映画だ。
規制が厳しいなんてことを忘れさせるほど多様なジャンルのミュージシャンたちが登場し、その音楽をバックに、テヘランの映像が小気味いいテンポで流れる。抑圧に屈せずアンダーグラウンドで音楽をやり続けるという「アンチ権力」の重苦しい映画かと思いきや、思わずリズムをとってしまいたくなるほど軽快な作品だ。
映画の冒頭で、ネガルがナデルに言う――自分たちは、親や政府に反抗して国を出たいと言っているんじゃない。ただ自由に音楽をやりたいだけだ、と。
彼らは、社会を変えるため、何かを訴えるため、あるいは金もうけのために音楽をやろうとしていない。自由に音楽をやるため、ただそのために行動する。この映画が説教くさくてウンザリさせるような映画になっていないのは、「一日中音楽をやっていられたら最高だ」と語る彼らの純粋な姿ゆえだ。彼らの自由を希求する想いや、音楽に対する熱意は、生活とか、金とか、名誉とか、そういうものからは遠く、ピュアで、勇気すら与えてくれる。

撮影は当局の許可なし、ゲリラ的に敢行された。アシュカンとネガルは、撮影が終了して4時間後にイランを出国。今も音楽活動しているらしい。バフマン・ゴバディ監督もイランを出て海外で暮らしている。
当然ながら(?)イランでは、本作の公開許可は下りていない。けれど、違法コピーで人々は観ているらしい。そして、"欧米の音楽は悪"という"教え"を信じている人々の、ミュージシャンに対する偏見、考え方を変えるきっかけになっているという。
さてこの映画、世界に対してはどんな作用をするだろうか。2009年のカンヌ国際映画祭では特別賞を受賞したが、今後は・・・? ひょっとしたら、イラン政府も無視できないほどのムーブメントが巻き起こるかも? これからどんな展開になっていくのか楽しみだ。

文・平林ミカ

監督 バフマン・ゴバディ
出演 ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャード、ハメッド・ベーダード
イラン/2009年/カラー/106分/HD→35o/1:2.35/ドルビー
オフィシャルサイト http://persian-neko.com/

バフマン・ゴバディ
1968年2月1日、イラン・イラク国境近くのクルディスタンの町、バネーに生まれる。88年から映画制作に携わり、初長編作『酔っぱらった馬の時間』(2000)で、カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)と国際批評家連盟賞をダブル受賞。続く長編第2作『わが故郷の歌』(2002)もカンヌ国際映画祭<ある視点>部門に出品。ふたたび高い評価を得た。2003年、イラク戦争終結後のイラクに入り、ドキュメンタリー『War is over?!・・・』を製作。長編3作目となる『亀も空を飛ぶ』(2004)をイラク領クルド人自治区で撮影し、現代の叙事詩といえるスケールで世界を圧倒。サンセバスチャン国際映画祭グランプリをはじめ数々の賞に輝き、米アカデミー賞外国語映画賞のイラン代表にも選ばれた。長編4作目の「Half Moon(半月)」はイラクのクルド人自治区でコンサートを開くため、イラン側から国境を越えようとする音楽家達のロードムービー。本作を最後にイランを離れ、現在、海外に居住。
※『ペルシャ猫を誰も知らない』公式サイトより全文転載

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