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CINEMA REVIEW ミニシアターへの誘い

2010年12月11日掲載

BABYは、天使か悪魔か?! ごく“平凡”な家族が授かった奇跡!

リッキー

『Ricky ― リッキー』


監督・脚本 / フランソワ・オゾン
キャスト/ アレクサンドラ・ラミー、セルジ・ロペス、メリュジーヌ・マヤンス、アルチュール・ペイレ 他

妊娠、出産までの道のり。そこには男女や家族の様々なドラマがある。この世に新しい命が誕生し育っていくというのは、本当に奇跡の連続。受胎というプロローグ、さらにそれ以前の男と女の出会いからすでに奇跡は何度も起こっている。そんなベイビー誕生の奇跡に、さらなるミラクル・サプライズが用意されているのが、この映画『Ricky―リッキー』。『まぼろし』、『8人の女たち』、『スイミング・プール』など、女性を独特の視点とトーンで描いてきたフランソワ・オゾン監督の最新作は、イギリスの作家ローズ・トレメインの短編小説「Moth(蛾)」を原案に“家族の絆”をテーマとしたファンタジー色の濃い作品となっている。

リッキーリッキー

工場で働くカティ(アレクサンドラ・ラミー)は、シングルマザー。郊外の団地に、7歳の娘リサ(メリュジーヌ・マヤンス)と暮らしている。ある日、カティはスペイン出身の同僚パコ(セルジ・ロペス)と恋に落ち、3人での暮らしが始まる。やがて、カティは妊娠、男の子を出産する。リサの提案で、ベイビーは"リッキー"と名付けられた。ところが、リッキーは大変な子だった。妙に食欲旺盛で、一日中泣きっぱなし。育児ストレスから、次第にカティとパコの関係はピリピリとしたものとなる。ついにパコが家を出て行ってしまうが、それからすぐ、驚愕の事態がカティたちを襲う――。(この"驚愕の事態"を種明かししている紹介記事もあるが、ここでは書かないことにする。ぜひ知らないままで映画をご覧いただきたい。)

この映画は、何とも不思議なフワフワした映画だ。パコに出て行かれたカティは、生まれたばかりの子供を置いて働きに出るわけにもいかず、家賃も払えない。不安定な生活環境の中で、四六時中泣き続ける赤ん坊。娘リサが必死にカティを手伝うも、育児ノイローゼ気味のカティはリッキーを施設に預けようと考える。ネグレクトや幼児虐待のニュースが連日報道される昨今、カティのような女性が隣近所にいてもおかしくない。そんなリアルな設定からオゾン監督のファンタジーは立ち上がってくる。その現実味を覚えさせるディテールは生彩そのもの。90%のファンタジーに10%のリアリティが混ぜられているのだが、そのエキスが強烈でファンタジーを単なる絵空事に収斂(しゅうれん)させていない。

リッキー物語は、サラサラ落ちていく砂時計の砂のように、ゆっくりと丁寧に進んでいくが、ある時点から急激にスピードを速めていく。見えない砂の中に何かが潜んでいるかもしれないというサスペンス感も観る者を強く惹きつける。と、ここまで書いておいて何なのだが、この映画の最大の魅力は、リッキー役のアルチュール・ペイレだ。オーディションで選ばれたという彼は撮影当時、まだ生後数ヶ月だったという。泣きわめいて足を思いっきりばたつかせる姿も、指にくっついたセロファンテープを一生懸命払おうとするしぐさも、紅いぷりぷりのほっぺたも、とにかくキュートすぎて、彼を見ているだけでつい微笑んでしまう。そして、リサ役のメリュジーヌ・マヤンスも素晴らしい。撮影当時は8歳だというが、自分だけのママを取られてしまう不安を見事に演じている。それでいて子供らしい笑顔も忘れない。今、注目の子役だ。

子供は天使か、それとも悪魔か。この言葉を巧妙、かつ絶妙に表現したオゾン監督の新しい女性映画。エンドロールの後もカティたち家族は物語を紡ぎ続けていく、そんな余韻に浸れる作品だ。

文・平林ミカ

Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開中
配給:アルシネテラン
© Eurowide Film Production - 2008 - Tous droits reserves

監督・脚本 フランソワ・オゾン
製作 クローディー・オサール / クリス・ボルズリ
脚本 エマニュエル・ベルンエイム
原案 ローズ・トレメイン
キャスト アレクサンドラ・ラミー、セルジ・ロペス、メリュジーヌ・マヤンス、アルチュール・ペイレ 他
フランス、イタリア / 2009年 / カラー / 90分 / HD→35mm / アメリカンビスタ
オフィシャルサイト http://www.alcine-terran.com/ricky/

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