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2010年3月17日掲載

特集 銀河と地球のはざまを生きて― 世紀を越える旅人 ななおさかき

新詩集の編纂者 原 成吉 氏に聞く
ななお さかきという詩人、その生き方(後編)
「ココペリ」種を蒔くネットワーカー 
ななおは、時代やいまのわたしたちの在り方、
文化状況に対して非常にクリティカルなんだけれども、
だからといってニヒリズムには行かない。
星を食べようよ、というビジョンに行くわけですよ。

(インタビュー・構成/大島憲治 撮影/山ア真一)

インタビュー前編はこちら >>

ななおの詩というのは、本質的にライフスタイルの詩

――ななおの詩を書きはじめた原点っていうか、影響を受けた詩人であるとか、そのあたりについてはどうなんでしょう?

ななお自身が、小林一茶の俳句を英訳してるのね、だから一茶には非常に関心を持っていた。あとは、万葉集や新古今和歌集についてもかなり詳しかった。ただ、現代の日本の詩人のなかで影響を受けた人がいるという話はあまり聞いたことないね。

――日本の詩人には興味がないって、ななお自身も語っていますしね。

原成吉氏

彼自身、全然違う視点だからね。つまり、純粋芸術としての詩というのは当然あるわけで、それは紙面のなかで様々な実験をしながら言語美というものを扱っていく。でも、ななおの詩というのは、本質的にライフスタイルの詩だと、ぼくは思っている。どう生きていくか、どんなふうに自分が、惑星としてのガイアを歩くかというね。また、その記録でもあるし、そのメッセージを仲間たちに伝えるっていう、そういう意味では、いわゆる現代詩と呼ばれるものとは違うわけですよ。だから、そこは狙うものが違うから、別にそれに関わる必要もない。一番大きいのはマスコミに対するものすごい警戒心というか、とにかく嫌いだった。新聞とか週刊誌とか、マスメディアっていうものに対して、つねに距離をおいていたし、安易に自分がそこに載ることをよしとしなかった。

ぼくは、スナイダーは一番近いかなという気がする。ビジョンを共有している意味で。

――そうですね、詩でも生き方でもスナイダーとななおには、共通する世界観というか視野がありますね。ふたりの朋友でもあるギンズバーグは、また全然違う世界です。

人と人を結びつける天才たち

アレン・ギンズバーグ著 諏訪優訳 思潮社 1991年

アレン・ギンズバーグとななおが似ている部分は、ネットワークづくりの天才だということですよ。ふたりは人と人を結びつける天才だった。ただ、違う点は、アレンは、マスメディアを徹底的に利用したっていうことね。あの人、セレブ大好きだったからね(笑)。ボブ・ディランやいろんな連中がみんな関係を持ちたがったし、晩年なんか、ポール・マッカートニーがギターを弾いて、「骸骨のバラッド」(原題 "The Ballad of the Skeletons")という作品をギンズバーグが歌っている、そういうのもありますから。ロック・ミュージシャンになりたかった人だから、アレンは。そこはななおとは違うけど、アレンも原発とか世界の自然環境をどうするとか、そういうことについては本当に真剣にやっていたね。

ひとつ面白い話がありますよ。ななおは、ニューヨークに行くとかならずギンズバーグのアパートに寄っていました。それである時、ななおがメイン州にむかう旅の途中に寄ったら、アレンが旅の費用に使ってくれって、2000ドルをななおに渡したそうです。ちょうど、スタンフォード大学がアレン・ギンズバーグのノートとか原稿、手紙などを全部買い取った頃の話ですが、日本円にして1億円くらいだったかな。そんなエピソードが残っていますね。ギンズバーグは、本当にななおを信頼していたと思います。彼はピーター・オーロフスキーと一緒に「ななお(※)」という詩を書いています。これは、見事なななおのポートレイトといえるでしょう。

詩「ななお」アレン・ギンズバーグ(原成吉訳) (別ウインドウで開きます)

――ななおも、アレン・ギンズバーグに対しては、「アレンを見てるだけで歴史が分かるんだよ、歴史が全部見えてくるんだよ」という、尊敬というか、ものすごい熱のこもった思いを持ちつづけていましたね。ギンズバーグというと、ビートの象徴のような存在ですが、ビートとななおというのは、イメージとしてあまりぴったりとこないですね。

ななお さかき

ビートというのは、あれはまさにジャック・ケルアックが名付けたものだけど。ビート・ジェネレーションというのはね。それをマスコミが取り上げて、それでもってビートっていうのが風俗化していく。つまり商品になっていくんですよ。本質的なものが失われてしまう。だから、ひげ生やして黒い服着て、サンダルはいてボンゴ叩いて、未完の詩をもって、ウロウロしてるやつ(笑)。あとは、ドラッグやセックスにおぼれてるやつ。それがビートだっていう、そういう風俗ビートみたいなのが、アメリカでもそうだけど、日本にも入ってきた。ななおは、そういうのが嫌いだった。「おれはビートだなんて一切言ったことない、おれはフーテンだ」と言っていました。まさに、ココペリですよ。常にオン・ザ・ロードの人だった。

文化の垣根を超えるななおの言葉

――先生自身は、ななおの詩でいちばん好きな作品はどれですか? 一つだけというのは、むずかしいでしょうが、そこを敢えて・・・。

原成吉氏

いっぱいありますよね。今度のななお詩集の本の帯にでも使おうかと思っているのがあるんですが、これはななおを知ってる人はみんな好きじゃないのかな、「ラブレター」という詩です。詩集『犬を歩けば』の中に入っている作品です。読んでみましょうか。(ななおの詩集を開き「ラブレター」を朗読する)

詩「ラブレター」ななおさかき(別ウインドウで開きます)

――とてもいい詩ですね。私も大好きです。平易な言葉で書かれていて、日本語のリズムがあって、深くて広くて・・・ほんとうにいい作品です。ななおは、世界的な詩人になるんじゃないかと私は直感的に思ったんですね。コスモポリタンという意味では、すでにそうなんでしょうが。さらに、これからいろいろな言語に翻訳されたとしても、人々に伝わっていく、浸透していく確かなものがある。そして、ななおが歩いてきた方向に、世界のほうもやっと目を向けだしたと。

ななおの言葉っていうのは、文化の垣根みたいなものを越えちゃうんです。そういうことは言えると思いますね。それは、ななおの詩のもっている不思議な魅力だね。

――きついブラックユーモアが作品にちりばめられたりしています。でも、どんなに辛辣(しんらつ)なことを書いていても明るい。カラッとしている。日本人離れしたと言ったら、陳腐なほめ方になるのですが。

ユーモアなの。それがいい詩人の条件だと思うね。ななおは、時代やいまのわたしたちの在り方、文化状況に対して非常にクリティカルなんだけれども、だからといってニヒリズムには行かない。星を食べようよ、というビジョンに行くわけですよ。

マスメディアとは全然違う視点のニュースを持ってくる

――これだけの世界観というかビジョン、表現力もそうですけども、思想にしても、ノーベル賞クラスじゃないかと思ってしまいます。

ななお さかき

詩の朗読をするななお さかき

ななおは、たぶん自分はそういうふうな形では残りたくない。天然記念物なんていらない、世界遺産なんていらないって、そんな詩も書いてましたけど(笑)。

いつも「君も詩を書きなさい」って、言ってましたね。「歌いなさい」と。不思議なことに、彼が70歳、80歳になってもポエトリー・リーディングをすると、若い人たち、それこそ10代、あるいは20代ぐらいの人たち、ぼくの学生たちもそうだけど、一発で惹かれちゃうの。何これ?っていう(笑)。こういう人がいるんだという驚き。1億2000万人いても、ななおみたいな人っていない。まあ、みんなそれぞれインディビジュアルという意味では一人なんだけども。ななおには、ぼくらが真似できない生き方っていうか、そういう魅力ってありますよね。

それと、距離の取り方っていうのがじつにうまいとぼくは思っていて。べったりっていうのは絶対ない。ななおと一緒に飯に行く、飲みに行くっていっても、別にお金なんか出すことない。

――お金なんかほとんど持ってないですものね、ななおは。

それは、ぼくらがいいよって言うんじゃなくて、当然のことなわけ。それに対して、ななおはマスメディアとは全然違う視点のニュースを持ってきてくれる。一緒に会っているときに、ぼくらはそうした無形のものをもらうわけ。それで元気になるわけね。たくさん詩人の友達がいるけど、会って元気になる詩人ってあんまりいないんです(笑)。ななおと会うと元気になるんだな。それが、ななおと会うぼくの楽しみでした。

ななおの詩を読んで、彼が歩いてきた足跡をぼくらも歩けるし、そこからいろんなものが見えてくる、というのが伝えられたら一番いいと思いますね。

――詩だけじゃなくて、ななおが歩いてきた世界や土地、そして文化ですね。

ななおから大きな影響を受けた人は世界中に

原成吉氏

世界がどんなふうに見えるのかっていうことだよね。ななおの詩は、こうすれば幸せになれるという答えを与えてなんかくれない。0か1かっていうデジタル思考じゃないわけですよ、ななおの詩の魅力っていうのは。

たぶん、ぼくのようにななおから影響を受けた人は、世界中にいっぱいいると思う。たまたまぼくは、アメリカの詩が専門なので、ななおの友人たちの詩を紹介したり、研究したりしてきたから、その存在がごく近くにあったんだと思う。ななおから元気の素をもらった人は、彼が歩いたところにたくさんいますよ。

――ひと言でななおを言い表すとしたら、どんな表現になるでしょう?

やっぱり「声の詩人」。ギンズバーグもそうだけど、亡くなったときに思い出したのはギンズバーグの声だった。それと同じように、ななおもそうだった。「声の詩人」、そして、手で書いたんじゃなくて「足で書いた詩人」とも言えるんじゃないかな。

最後にひと言いいかな――ななおの仲間に手伝ってもらって、新しい詩集を作りたかったのは、ななおを有名にしたいからじゃないんです。そういうのを、ななおは一番嫌っていたからね。そんなことをしたら、ぼくらは怒られる。ななおは詩を残してくれたから、ぼくらはそれを他の人たちにも読んでもらえるように、ななおの手紙として届ける、それが狙いです。おそらくななおもそれを望んでいたし、それ以上のことはするなって、言うと思います。もちろん、それでななおが知られるようになればうれしいですけどね。

取材:2010年1月28日 独協大学 原成吉研究室


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