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2010年4月15日掲載

特集 銀河と地球のはざまを生きて― 世紀を越える旅人 ななおさかき

「足がある」 ナーガ  (長沢哲夫)
記憶という砂漠にころがる石をひろってみよう
新宿 風月堂
ナナオはいう
“君、ぼくはいそがしくってね。そっちにも呼ばれているし、
あっちにも呼ばれています”
“いってらっしゃい。ぼくはもう少しここに座っています。
バッハを聴きながら”
そして また
“君は今夜の宿はどこかね?”
“三鷹だよ”
それでは、とぼくらは歩きだす
新宿から中央線に沿って
鉄とコンクリートの水たまりのほとり
文明をつきぬけ
「足がある」と
ぼくらは歩く
時速6qで
たそがれの空をかすめ
ほんのり星がまたたき出す
ぼくらは祈りもしないで星を見つめる
シリウスだ オリオンだ 南極老人星だ
星たちが歩いている
稼ぎはないし 宿もない星たち
時には 砂の消えた浜辺でヤドカリたちと酒を飲み
時には カエルたちの奏でるバロックを聴きながら
リュックには ギリシャ哲学 ウパニシャド 仏典をしのばせ
光りの花 闇の花に包まれながら
「足がある」
エメラルド色の海 白い渚 照りつける太陽の下
時には まぶしく輝く雪の上を
歩く足が
“じゃ また”と
ぼくらは別れ また会った
そして今度は君は、君のものではない君の死体を置いて出かけていった
きっとまた、そっちに呼ばれたのだろう
地図に書かれた骨であり
サボテンの花であり
灰まみれの風に吹かれる歌だ
そう 歌になって
じゃ また 新宿で
はりねずみの風月堂で
やぶこうじの森で
高速道路の行き交う闇の中で
放射能がふり注ぐ雨の中で
焼酎をひっかけ ラーメンをすすろう
ほほほと笑ったり
あり得ない言葉をしゃべったり
夢みられている夢のように
歩いていくか
そう 歩いてきたことは
“どうぞ忘れて下さい”
ただ 今 ここにいる
これで十分
さて ナナオ お茶にしようや

プロフィール

ナーガ 長沢哲夫(ながさわ・てつお)
1942年、東京生まれ。詩人。
1960年代後半、ななおさかき、山尾三省らとコミューン「部族」を立ち上げる。また、「バム・アカデミー」(乞食学会)なるものをつくり、乞食同然の姿で全国各地を旅した。「部族」結成前から、アメリカのビートジェネレーションを代表するゲーリー・スナイダーやアレン・ギンズバーグと親交をもっていた。1969年から70年にかけて、インド・ネパールを1年間放浪する。70年半ばにコミューンは解散するが、「部族」の拠点でもあったトカラ列島・諏訪之瀬島にそのまま居住。その後、30年以上にわたって島の漁師として生計を立てながら、詩作を続けている。ここ数年、「部族」時代からの仲間でミュージシャンの内田ボブとともに、歌と詩の全国ライブツアーを行っている。
主な詩集に『魚たちの家』(南方新社)、『一秒の死を歩く』(私家版)、『きらびやかな死』(SPLASH WORDS)など。

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